抽象と具体 ~法則の発見と活用編~

ロジカルシンキング

抽象と具体と聞いて、みなさんが想像する場面と言えば、「もっと具体的に話してくれないか?」「もっと具体的な目標にしたらどうだ?」こんなことを言われたりしたことはありませんか?
でも抽象的に話せ。抽象的に考えろ。なんて言われたことないのではないでしょうか?

では、抽象的に考えることは不要なのか。
否。断じて否でございます。

ロジカルシンキングに必要な力は別記事で紹介してきました。「演繹法と帰納法について」「MECEについて
演繹法は抽象的な一般論、前提から、具体的な結論を導き出す力。
帰納法は具体的なデータ、事象から。抽象的な結論を導き出す力。
MECEは抽象、具体の階段を一段ずつ網羅する力。

これらは、抽象と具体の世界を行き来したり、自分がどの抽象度の世界にいるのかを認識できていないと使えない力なのです。

しかし、この抽象と具体の関係を1記事で書ききるにはとても困難で複雑なものでして。
(これらの関係自体がとても抽象的だとも言えるのですが)
そこで本記事では、「抽象と具体」という関係を「法則の発見と活用」という観点で考えてみようと思います。
これにより「一を聞いて十を知る」を実践できるメカニズムを理解することができるでしょう。

抽象化と具体化とは

まず、ざっくりと抽象化と具体化についておさらいします。
「過去の先祖は皆なくなっている」という事象から「人はいつか死ぬ」という結論を導くように、複数の事象の共通点から法則を導き出すことが抽象化であり、これは「帰納法」と呼ばれる手法になります。
「人はいつか死ぬ」という法則に「あなたは人である」という事象を当てはめることで「あなたはいつか死ぬ」という結論を導き出すのことが具体化であり、これは「演繹法」と呼ばれる手法になります。

つまり、抽象化で法則を発見し、具体化で法則を活用する。という関係が成り立っています。

抽象化:法則の発見

参考文献では抽象化最大のメリットを以下のように語られています。

抽象化の最大のメリットとは何でしょうか?
それは、複数のものを共通の特徴を以てグルーピングして「同じ」と見なすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になることです。つまり「一を聞いて十を知る」(実際には、十どころか百万でも可能)です。

【出展元】:具体と抽象 世界が変わってみえる仕組み(著:細谷 功)

抽象化とは。、複数の事象から、それをさらに別の事象にも応用できるような法則を発見する力です。

MECEを理解しよう」の記事で書いたMECEのメリットの中に、多くのデータからパターンを発見できる。と書いたのですが、実はパターン認識そのものは抽象化スキルの専売特許であり、MECEは複雑なデータからどこが共通しているかをわかりやすくするためのサポートの立場だったのです。
(このブログ書いてて気付きました)

パターンについてもMECEの記事で解説しておりますが、ここではいわゆる「法則」のことだと思っていただければOKです。

参考文献ではこれをエネルギー保存の法則で説明しております。

「エネルギー」という概念で「熱」や「運動」や「高さ」すべて「同じもの」ととらえたおかげで、これらを「エネルギー保存の法則」という理論で取り扱い、たとえば発電という形で人類全体の役に立つ応用技術が生み出されてきました。これも、抽象化による知の発展として挙げられます。

【出展元】:具体と抽象 世界が変わってみえる仕組み(著:細谷 功)

この世のあらゆる法則は、この抽象化によって導かれています。
そして、抽象化の対象はこう言った学問における法則のように、難しいものだけではありません。
「お米のとぎ汁は油や手垢などの汚れを落とせる」といった、おばあちゃんの知恵袋や、「二度あることは、三度ある」といった、ことわざのように、多くの経験から導き出された経験則は抽象化によって生まれています。
心理学のようにアンケートなどの統計から仮説を立てる。という考え方も抽象化です。(仮説を裏付ける実態調査は別物ですが)

このように人は抽象化によって、ありとあらゆる法則を見出し、障害を未然に避け、より良い可能性を掴むことができるようになっていると言えます。(例えその意識がなかったとしても)

具体化:法則の活用

抽象化があらゆる法則を見出すのが役割なのに対して、具体化は法則を利用する際に必要な力です。

例えば、お医者さんは、患者さんのあらゆる症状(データ)から、どのような検査をすべきか、どのような病気である可能性が高いかを判断していきます。「38度以上の熱だからインフルエンザの検査をしよう」や「食欲不振、吐き気、発熱を伴う腹痛だから、盲腸かもしれない」
このように、あらゆるパターン(インフルエンザの場合はどのような症状が起こる、盲腸の場合は…。)に実際起こっている事象(発熱、吐き気、悪寒)を当てはめ、病気を特定していきます。(まあ、ここは推測の話ですが)
そして、どのような対策をするかも、この病気でこの進行具合であれば、どのように対処すべきだ。というパターン(理論、経験則)に病気、進行具合(事象、データ)を当てはめて決定していきます。

このように、あなたの目の前で何が起こっており、あなたはどうするのか。これを考える時、必ず抽象的な法則から、具体的な行動を導き出し、それを実行しています。
そして、人は意識するしないに関わらず、意思決定の連続で生きています。

つまり、何かを実行する時、あるいは何も実行しないと決めた時。それは常に、抽象から具体への変換作業なのです。

例えば、お昼ご飯にサンドイッチをチョイスするのも「昨日はおにぎりを食べたから」とか「今日はたまごサンドが食べたい気分」とか、そういった事象を「毎日食べるものは同じではない方がいい」とか「その日の気分に合わせて食事をすることが幸せだ」といった各個人が持っている価値観とも言える、それまでの人生で得た経験や知識に基づく法則に当てはめて決定しているのです。
何も考えてないよ!という人は「何を食べるか考えるのが面倒な場合は、300円以下のサンドイッチか惣菜パンで買ったことあるやつにしよう」というような無意識レベルの法則に当てはめているのかもしれません。

法則の発見と活用のメリット

ここまでで、皆さんも意図せず抽象化と具体化を操っていたことがなんとなく理解できたかと思います。
しかし、ここで「ふーん」で終わってしまっては、あまりももったいないですよね。
法則の発見と活用のメカニズムに関して理解していただいた上で、そもそもこのスキルを身に付けるとどう役立つのかを考えてみましょう。
抽象化スキルは上流の仕事であるほど、便利なスキルだと言われています。つまり、経営判断や商品開発などがそうです。
例えば、顧客からの不満や喜びの声から、真に顧客が求める潜在的なニーズを発見できるかもしれません。
お店に来店する顧客にアンケートを実施した結果「わざわざ店に行ったのに在庫切れだった」「商品がどの棚にあるのかわかりづらい」「レジが混んでる」こういった具体的な意見があるとします。これはどれも商品そのものや価格に対しての不満ではありません。
「欲しい商品を手に入れるための時間コスト」に対する不満が共通点だと仮定すれば「顧客の時間を奪わずに商品をお渡しする」ということが重要になってきそうです。
「店員の商品説明が難しくてわかりづらい」「品物の比較項目がいっぱいあってどれがいいかわかりにくい」こういった声が多数あるとします。
「詳しい内容は知らなくていいから、自分にあったものを知りたい」という共通点からの不満だと仮定すれば「この商品はズバリどんな人にオススメか」がわかるキャッチコピーなんかを掲載するのが効果的かもしれません。

具体化スキルは逆に、下流の仕事に行くほど、便利なスキルと言えます。上流で決めた方針から最終的にどのような行動が必要かを明確にしていくのです。
「顧客の時間を奪わずに商品をお渡しする」ことが重要だという結論を導き出した場合、自社製品でどのような対応が取れるかを具体的に考えます。
今でこそ当たり前にはなっていますが、ネット通販なんかは魅力的な手段ですよね。
ネットで扱いにくい商品もあります。ファストフードなんかはドライブスルーで素早く提供してくれますし、スーパーマーケットは昔の八百屋さん、お肉屋さん、お魚屋さんと別れていた時代から考えると、一気にお買い物が済ませられるのでこれも時間短縮と言えるかもしれませんね。
このような様々な手法(法則)から自社ではどのような手法が有効かを考え、具体的な方法を検討していきます。
(前例にとらわれず、まだ誰も発見していないビジネスモデルを抽象化によって発見できるととても強力です)
ドライブスルーをやってみたらどうだ。と考えたら、最終的には自社の強みを活かせる必要なシステムを設計して、自社に足りない必要な設備を導入して、必要なマニュアルを作成してという行動に落とし込んでいきます。
最近は回転寿司なんかでもドライブスルーをやっているお店があるみたいですね。

実は細かいことを言うと、この過程では抽象度の高いテーマから常に具体化が進んでいるわけではなく、行ったり来たりすることもあるのですが、法則の発見と活用がどういった場面で役立つか。を理解する一助となれば幸いです。

法則の発見と活用の実践

上記でも触れましたが、新しいビジネスモデルや、新しい人間の心理を発見する。と言った抽象化を実践できると、とても強力なスキルと言えますが、これは抽象化だけでなく様々な専門知識も要求されることでしょう。
まずは、考え方の肝となる「帰納法」「演繹法」の使い分けを「法則の発見と活用」に当てはめて、使っている場面を意識しましょう。

例題として、仕事あるいは学校のテストや部活でも良いので、何か失敗をしてしまった場面を、いくつか思い返してみましょう。

私の場合は
・この書類のここだけ書き換えといて、と頼まれたものをやり忘れていた
・この部品だけは後で発注かけとこう。と思ってたことを忘れていた
・○○さんが席に戻ったら、これを伝えよう。と思っていたことを忘れていた
このような感じで、後でやろうと思ったことを忘れることが多かったです。これに一つ一つ対策をしていたらキリがないですし、効率が悪いです。
優先順位をつけて何かを後回しすることも必要ですし、そのたびにメモを残そうと思ったらメモの作成にもその管理にも手間がかかってしまいます。(それを当然としてやる人もいるでしょうが、私は絶対途中で投げ出すと思ってました)

そこで、これらの事象の共通点を抽象化し、どのような時に忘れてしまうのか。という法則を探します。
例えば「すぐできる簡単な仕事ほど、後回しにすると忘れやすい」という法則を私は発見できました。私の場合、重要度に関わらず、短時間で簡単に終わるタスクは覚えておけないようです。
この法則を発見できたら、何かを後回しにしそうになった時、そのリスクを考慮して具体的な行動に落とし込むことができます。
今、後回しにしようとしていることは、この法則が適応されるのか?適応されるのであれば、後回しにするのをやめれないか。後回しにするのであれば、メモを残す等の対策をしよう。
こうすることで、書類の訂正。部品の発注。伝言。こういった事象からありとあらゆる簡単な仕事に対しての学びを得ることができました。

是非みなさんも失敗経験から、失敗の法則を発見し、どのような対策を取れば良いか考えてみてください。
といっても、今までも無意識的にしろ、少なからずやってきたことかとは思います。
まずは、すでに自分の中に経験則という答えを持っているものでも良いです。
どういった経験から、あなたはその経験則を導き出したのか、今一度掘り起こしてみてください。

例題を見ているだけでは決して身につきません。あなたがゼロベースで自分なりの答えにたどり着く度に、「法則の発見と活用」のスキルは身につくはずです。

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