データは嘘は付かないが、嘘をつく人はデータを使う。
みなさん、テレビのニュースで以下のような情報を目にしたらどう思うでしょう?
「最近のテストで赤点を取る学生は、スマホゲームを毎日1日2時間以上やっている。だからスマホゲームの時間を規制すべきだ」
このニュースでは、赤点をとっている人数に対して、スマホゲームを1日2時間以上やっている人の割合が5年前より30%も増えている。と言う情報も出してきたとします。
(上記のデータは架空のものです)
これは、因果関係では無いかもしれないものを、あたかもそれが原因であるかのように結論付けております。
例えば、スマホゲームをたくさんやることで、成績が落ちた人がたくさん出てきた。わけではなく、スマホゲームをたくさんやる人口が増えてきたから、その割合が増えただけかも知れない。と言うことです。
赤点をとっていない人のデータも見てみると、同じようにスマホゲームをたくさんしている人がいるかも知れないのです。
マスメディアは、こういったデータの一部を切り取って結論付ける手法をとって、世論を操作している。なんて少なからず言われておりますよね。
意図するしないに関わらず、データを誤って解釈し、間違った結論を取り出してしまうことはあらゆる場面で起こっております。
そして、データを誤って解釈してしまう原因は、相関関係と因果関係を履き違えてしまうことによって起こります。
本記事では、相関関係と因果関係の違い。見分ける時の注意点をご紹介します。
相関関係と因果関係の違い
Aが増えた時、Bも増える。AとBの関係は「相関関係」であると言えます。
Cが増えることによって、AもBも増える。CとA、CとBは「因果関係」であると言えます。
この2つの違いは、原因がどこにあるのか。によって見えてきます。
A,B,Cこれらの関係を図で考えてみましょう。
字のごとく、原因と結果の関係にあるものは「因果関係」になりますね。
また、因果関係であるものは、同時に相関関係でもあります。
つまり、因果関係と相関関係は包含関係があります。
ややこしいですね。
相関関係の中でも、原因と結果という結びつきをしている特別な関係を、因果関係と呼ぶのだと理解していただければと思います。
一つ例を挙げましょう。
「青汁を飲んでる人は健康だ」という主張があったとしましょう。
青汁は確かに健康に貢献している側面はあるでしょう(意味ないという論も目にしますが)
しかし、健康であるか否かに、より貢献しているのは「青汁を飲んでいる人は健康意識が高い人である」という要因によるものであると考えることもできます。
(この例は私の憶測です)
これらの意味については、改めて確認せずとも「そのくらいは理解してるよ」という方も多いのではないでしょうか。
しかし、わかっていても、相関関係であるものを、因果関係であると誤って解釈してしまうことはよくある話なのです。
相関関係と因果関係を見極めるのは難しい
そもそも、相関関係であるか、因果関係であるかを完全に見極めることは本来とても難しいことなのです。
普段私達が常識だと思っていることでさえ、因果関係であるかどうかの解釈違いであることも十分にあり得る話なのです。
こちらも一つ例を挙げましょう。
メンタリストDaiGoさんが【最高のパフォーマンスを実現する超健康法】という本で「朝食は抜くな」は間違いであると指摘しています。
また、【「空腹」こそ 最強のクスリ】(著:青木厚) こちらの本でも、むしろ朝食は抜くべきという指摘をしており、18万部を突破するベストセラーとして、現在注目を集めております。
今までの常識で考えるのであれば、朝食は食べるべきであると考えますよね。(私は常識という言葉は嫌いですが)
昔からあらゆるデータを用いて、朝食を食べている人の方が健康だ!朝食を食べている子供の方が成績がいい!という情報をなんとなく受け取っていたと思います。
これに対して「朝食を食べる」と「健康である」や「成績がいい」というのはあくまでも相関関係でしかないぞ。と論じているのが、上で紹介した本の主張になります。
どういうことかと言うと、今までの「朝ごはんは食べるべきだ」とする研究のほとんどは観察研究と呼ばれるものでした。
観察研究とは、例えば「朝ごはんを食べると成績が良くなる」というのは、成績の良い人も悪い人もごっちゃにサンプルして、朝ごはんを食べてる人と食べてない人の割合を調べた結果が根拠になっています。
成績の悪かった人達は、成績の良い人達に比べて、朝食を食べてなかった人が多かったということです。
確かに、朝食を食べるかどうかと、成績の良し悪しには相関関係があるかも知れません。
しかし、これだけでは朝食を食べないことが原因だとは言えないのです。
親が夜遅くまで仕事をする職業で、朝ごはんを用意してあげられなかったりすると、子供も親がいないから夜更かしして遊んでおり、勉強する習慣がない。睡眠の質や量が勉強の効率を妨げている。といったことも考えられます。
子供に毎朝ごはんを食べさせてあげよう。と、子育てに対して真面目に向き合っていなければ、親は成績なんて気にしてないかも知れません。
(子供に朝ごはんを食べさせないのはおかしいとか、成績を気にしないのは不真面目だと言ってるわけではありません)
つまり、朝食を食べないことが成績を悪くするのではなく、生活習慣や家庭環境によって、朝食が食べられなかったり、成績が悪くなったりしている可能性もある。ということです。
これと同じように、「朝食抜きは健康に悪い」という研究も、観察研究によるもので、相関関係は確認できても、因果関係は確認できていない。という話があります。
上記の2つの本は、逆に「朝食を抜くと健康に良い」と言うことを語っています。こちらは介入研究という方法で根拠付けされています。
これは、朝食を今まで食べてきた人、食べていない人、を調査する方法とは違い、今まで朝食を食べてきた人達を、これからも食べ続けるグループ。これからは食べないグループ。に分けて調査する。といった方法です。
観察研究では朝食を食べないことが原因なのか、朝食を食べないことの原因が原因なのか。その辺りの判別ができなかったのに対して、介入研究では朝食を食べていたグループと食べなかったグループの前提条件に偏りは無いものと考えることができるので、朝食を食べなかったグループが起こす変化は、朝食を食べなかったことが原因だと考えることができるわけです。
つまり、介入研究によって、相関関係だけでなく、因果関係があるかどうかを確認できるのです。
ここでは話の内容が逸れるので、簡単に朝食を食べない事によるメリットを説明します
1.実は、私達は1日3食摂取することで、私達の内臓(胃や腸)をずっと働かせ続けているのです。人の体は1日のサイクルで休む時間が必要ですが、内臓もそれは同じなようです。
内臓を働かせ続けることによって、それは実際の疲労感として現れたり、果てには寿命を縮めるとまで言われております。
2.また、朝ごはんを抜くことで、人は軽い飢餓状態となるのですが、この軽い飢餓状態はむしろ細胞を生まれ変わらせると言われております。この働きを「オートファジー」と呼び、ノーベル医学生理学賞も受賞している大変優秀な働きです。
これは健康維持や免疫力アップに効果を発揮します。
(詳しく知りたい方は、紹介した本を確認いただければと思います。Youtubeでも、本の内容を要約した話もあります)
(また、これらの研究はまだサンプル数が十分では無いとも言われております。このブログの情報だけで判断しないようにしてください)
少し長くなりましたが、私達の持っている常識や当たり前にさえも、相関関係と因果関係を履き違えることによる誤解が潜んでいることがお分かりいただけたでしょうか?
研究を得意とする科学の分野、それこそあらゆる論文も、常に新しい研究によって情報が上書きされています。
それだけ、相関関係と因果関係を正しく見極めることは難しいことなのだとご理解ください。
相関関係と因果関係を見極める注意点
相関関係と因果関係を見極めるのは難しいと言いました。
しかし、見極めるのは諦めましょう。と結論付けると、あらゆることにチャレンジすることが恐ろしくなってしまいますよね。
例えばビジネスにおいて「自社の安い商品よりも、他社の高価で品質の高い商品程売れている」という調査を行った上で、品質こそが大事なんだ!と多額の設備投資をした結果、売れている一番の要因が品質ではなく、ブランド力や販売方法や広告等、他の要因によるものだった場合。もしかしたら設備投資は無駄に終わるかもしれません。
他者の商品は品質が高いことで売れていたわけではなく、品質の高さを全面的に押し出した大規模な広告で勝ち取った、ブランド力によるものだったかもしれないわけです。
そう、因果関係を見極めることは難しいですが、とても大切なことです。
因果関係を見極めるためには、実際に何にすれば良いかを考えてみましょう。
基本的に因果関係を見極めるステップは以下の通りです。
・観察研究で仮説を立てる
・介入研究で検証する
観察研究で仮説を立てる
難しく聞こえる言葉ですが、つまり「既に起こっていることから、その理由を考えてみよう」ということです。
身近な例で考えてみます。
「昔に比べて慢性的な疲れを感じるようになった」としましょう。
昔と比べて変化した部分を考えると、「最近はコーヒーやエナジードリンクなどからカフェインを毎日摂取している」という理由が考えられました。
調べてみると、カフェインの取り過ぎは、慢性疲労を起こすことがあるそうだ。という情報も確認できました。
ここで、カフェインの取り過ぎに違いない!と判断して、介入実験の段階に入ってもいいのですが、ちょっと待ちましょう。
これが原因かな?と思い至っても、注意すべきポイントが2つあります。
他に影響が考えられる要因はないか?
一番疑わしいのが「カフェインの取り過ぎ」だとしても、他の要因を洗い出しておけば、それを考慮した介入研究が可能です。
例えば「最近外食が増えた」「ゲームにハマって睡眠時間が削られがち」などの要因も出てくるかも知れません。
人は、確証バイアスというものを持っており、「これが正しいだろう」という情報ばかりを集めてしまう心理が働きがちです。確認作業に入る前に、他の可能性も視野に入れておくことで、介入研究でのデータを客観的に見ることができるでしょう。
その原因の原因が真の原因ではないか
「朝食を食べないと成績が下がる」の例でも挙げたことですが、朝食を食べないことが原因ではなく、朝食を食べない原因である、生活習慣の乱れや家庭環境の方こそ真の原因である。という場合はよくあります。
慢性疲労はカフェインの取り過ぎによっても確かに起こるようですが、そもそもカフェインをたくさん取るようになったのは、睡眠時間が少なくなり、日中疲労感を感じてエナジードリンクなどを飲み始めたのでは?とも考えられます。
真の原因を突き止めることは、対策を行う上でとても重要なことです。
成績を上げるために朝食を無理やり食べても、効果はないかも知れません。
カフェインを取るのをやめても、食生活や睡眠時間の問題だとしたら、対策としては不十分です。
介入研究で検証する
「実際に条件を設定して、仮説を確かめてみよう」という段階です。
観察研究の段階でも、あらゆるデータが十分に揃っていれば、納得感のある結論を出すことは可能です。
しかし、基本的に観察研究だけでは、仮説で止まってしまうのです。
仮説は検証してみないと、本当にそうだと言えるかわかりません。
介入研究を行う上でも注意すべきポイントが2つあります。
他の要因が混在しない条件を設定する
「慢性疲労を感じるのはカフェインの取り過ぎが原因だ」という仮説を立てたとしましょう。
これを確認するには、2週間程度カフェインの摂取をやめてみる。といったアクションが考えられますが、他の要因は極力同じ条件で検証する必要があります。
例えば、睡眠時間や食生活といった要因が影響してそうだと判断したら、なるべくこれらは普段通りに検証します。
もちろん、真の原因はさておき、何よりも解決したいんだ。という目的があるのであれば全て改善した上で、並行して検証しても良いのですが、もしかしたら必要以上に寝ることになったり、我慢しなくても良い外食を我慢することになる可能性もあります。
健康面で考えればそれでも良いか。とも思えますが、ビジネスの世界では余分なコストをかけるわけにはいきませんから、真の原因を突き止めて、ピンポイントにその場所にメスを入れることはとても重要です。
規模を小さく検証する
あくまでも検証のステップであることを忘れてはいけません。
「自社の安い商品よりも、他社の高価で品質の高い商品程売れている」という例でも挙げましたが、仮説の段階から、いきなりチャレンジすると大きな痛手を負う可能性があります。
我が社もコスト高になっても品質の高い商品を作ろう。とした場合、規模を小さく作り、試作品で顧客の反応を確認することで「本当に品質が高ければ売れるのか」という仮説を検証することができそうです。
因果関係との付き合い方
介入研究は、因果関係を見極める上でとても大切なステップです。
観察研究による仮説を得ただけで、原因がわかった。と勘違いをしてはいけません。
とはいえ、最近は意思決定にスピードが求められる時代ですから、あらゆるアクションの前に介入研究を挟むのも無理があるでしょう。
仮説の段階でアクションを取るのはリスクがあることはご理解いただけたかと思います。
しかし、逆に言えばそのリスクを負ってでも早期にアクションをするメリットがあるのであれば、仮説を信じて動いてもいいでしょう。
観察研究の段階で他の要因も視野に入っていれば、あらかじめリスクを抑えることも可能です。
また、冒頭で挙げたマスメディアや他の人の意見に対しても、注意深く受け取る必要があるかもしれません。
他の人の主張の根拠にいくらそれらしいデータがあったとしても、その多くは仮説止まりでしかないかもしれないことを念頭に考えましょう。
そう考えると、この世の中は「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」というあやふやな結論に満ち溢れていることに気付くでしょう。その世界観の中で、自分でリスクを推し量って、いつも自分で考えて結論付けていくことはとても面倒なのも事実ですが、自立して自分で考えて生きることのワクワク感や充実感は、この世界観で生きる人にしか味わえないとても魅力的な価値観です。
是非皆さんも足を踏み入れてみてください。
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